「ゴミ屋敷対策」の専門ガイドとして、これまで多くの自治体や現場スタッフにアドバイスを行ってきましたが、成功する介入の共通点は、常に民生委員という現場のキーパーソンの活用にあります。ゴミ屋敷を物理的に片付けることは、お金と労力をかければ可能ですが、根本的な解決、すなわち「住人の心の再生」と「再発防止」を実現するためには、民生委員による心理的なアプローチが不可欠です。住人がゴミを溜め込むのは、多くの場合、自分自身を大切にするエネルギーを喪失した結果生じるセルフネグレクトが原因です。このような状態にある人に対し、いきなり「片付けなさい」と迫ることは、骨折している人に「走りなさい」と言うのと同じほど無慈避な行為です。ここで民生委員に求められるアドバイスは、まず住人の「自己肯定感」を回復させることです。ゴミの山を指摘するのではなく、住人自身の健康状態や、かつての得意だったこと、好きだったものについて語ってもらう場を作ります。民生委員は、地域に住む隣人という立場を最大限に活かし、「あなたのことが心配なんです」というパーソナルなメッセージを伝え続けます。これにより、住人は自分がまだ誰かに気にかけてもらえる存在であると認識し始め、ようやく「このままではいけない」という自発的な意欲が芽生えます。また、民生委員は行政の担当者に対しても、住人の微細な変化を報告する役割を担います。例えば、「今日は少しだけ玄関のゴミを自分でのけていた」とか「久しぶりに身だしなみに気を使っていた」といった情報は、行政が支援のタイミングを見極める上で極めて重要なデータとなります。自治体の条例に基づいた「勧告」や「命令」を出す前段階において、民生委員がいかに丁寧に「土壌」を耕しておけるかが、その後の強制執行などの法的手段を回避し、円満な解決へと導く鍵となります。ゴミ屋敷解消の技術とは、実は「待つ」技術でもあります。住人の心が動き出すその瞬間まで、根気強く扉の外で待ち続ける。その忍耐の作業を担えるのは、民生委員をおいて他にいません。専門家として私たちができるのは、そうした過酷な現場に立つ民生委員を孤独にさせないためのバックアップ体制を作ることです。法的知識や医療的な知識を提供し、民生委員が「自分一人で抱え込まなくていい」と思える環境を整えること。それこそが、ゴミ屋敷問題という現代の難病に対する、最も効果的な処方箋となるのです。清潔な住環境を取り戻すことは、住人の命を救うことであり、その最前線に立つ民生委員の役割は、これからもますます重要になっていくことは間違いありません。
ゴミの中に隠された高齢者の叫びを聴く