ゴミ屋敷問題の最前線で今、最も注目されているのが、高齢者が自身の健康や衛生を著しく疎かにする「セルフネグレクト」という状態であり、これに伴うゴミ屋敷化はもはや個人の問題ではなく、地域の福祉課題として捉える必要があります。ある地方自治体で発生した事例では、一人暮らしの八十代女性が、周囲の助けを拒み続けた結果、自宅が天井近くまでゴミで埋まり、異臭や害虫の被害が近隣住民にまで及ぶ事態となりました。女性は「自分の勝手だ」「中には宝物が入っている」と主張し、行政の指導にも一切応じませんでした。このようなケースにおいて、強制的にゴミを撤去する「行政代執行」は最終手段であり、そこに至るまでの福祉的なアプローチが極めて重要となります。この事例では、地域包括支援センターの職員が週に何度も訪問を重ね、最初は世間話から始め、半年かけてようやく信頼関係を築きました。彼女がゴミを溜め込んでいた背景には、かつての子育て時代の記憶への執着と、未来に対する強い恐怖がありました。福祉チームは、彼女の尊厳を守りつつ、「もし火災が起きたら近隣の方にも迷惑がかかる」という社会的な責任感を刺激し、徐々に心の壁を溶かしていきました。結果として、女性は専門の清掃業者による作業に同意し、二十年分のゴミを撤去することに成功しましたが、真の解決はその後でした。清掃後も定期的な見守り支援と、地域の高齢者サロンへの参加を促すことで、彼女の孤独を解消し、二度とゴミを溜め込まないための環境を整備したのです。この事例が教えるのは、ゴミ屋敷の解消には「物理的な撤去」と「継続的な精神支援」の両輪が不可欠であるという点です。ゴミ屋敷という物理的な問題の根底にあるのは、脳の機能不全や心の叫びです。親がゴミ屋敷に住んでいる場合、子供だけで解決しようとせず、行政の窓口やケアマネジャーといった専門職を巻き込み、チームで対応することが、親の自尊心を傷つけずに問題を解決するための最も賢明な選択と言えるでしょう。
高齢親のセルフネグレクトとゴミ屋敷問題に対する行政と福祉の介入事例