私がこれまで関わってきたゴミ屋敷の清掃現場には、必ずと言っていいほど「語り部」が存在しました。それは、ネズミです。彼らは言葉を話しませんが、その存在と行動は、その家の歴史や住人の生活状況を雄弁に物語っていました。ある独り暮らしの男性の家を片付けた時のことです。彼は長年、家族との縁も薄く、仕事一筋で生きてきた方でした。しかし、定年退職を機に孤独を感じ始め、いつしか部屋は物で溢れかえるようになったと言います。彼の家に入ると、まず鼻を突くのはカビと埃、そしてわずかに残る食べ物の腐敗臭でした。そして、足元には無数のネズミの糞が散らばり、壁や家具には彼らが齧ったと思われる無数の痕跡がありました。ネズミたちは、彼が食べたであろうスナック菓子の袋や、散らばったレトルト食品の容器を巣の材料にし、その中には彼らの毛や死骸までが混じっていました。それはまるで、男性の孤独な生活に寄り添うように、ネズミたちがこの家で生きてきた証のようでした。彼らがこの家で何を食べて、どこで寝て、どのように繁殖してきたのか、その全てが散らばったゴミの中に隠されていました。私はこの光景を見て、ネズミが単なる害獣としてだけでなく、その家の「状態」を示すバロメーターでもあると感じました。彼らがそこにいるということは、家が清潔に保たれていないだけでなく、食料が放置され、侵入経路が塞がれていないという明確なサインなのです。清掃作業を進める中で、私たちは男性が大切にしていたと思われる写真立てを見つけました。しかし、それもネズミによって一部が齧られ、糞が付着していました。彼はそれを見て、静かに涙を流しました。ネズミの存在は、単に物理的な被害をもたらすだけでなく、住人の心にも深い傷を残すことがあります。だからこそ、ゴミ屋敷の片付けは、ただ物を捨てるだけではなく、その家に住む人の心に寄り添い、彼らが新たな生活を始めるための手助けをすることだと、私は改めて感じたのです。
ネズミが語るゴミ屋敷の物語