ゴミ屋敷に住む家族に、意を決して片付けを促した時、「これはゴミじゃない!」と激しく抵抗され、途方に暮れてしまった。このような経験を持つ方は、決して少なくありません。良かれと思ってしたことが、かえって相手を怒らせ、関係を悪化させてしまう。この負のループから抜け出すためには、力ずくで片付けようとするのではなく、相手の心理を理解した上で、慎重に、そして段階的にアプローチすることが不可欠です。まず、絶対にやってはいけないのが、「これはゴミでしょ!」と、自分の価値観を一方的に押し付けることです。相手にとっては、それはゴミではなく、大切な「財産」や「心の支え」なのです。その価値観を頭ごなしに否定することは、相手の尊厳を傷つけ、心を固く閉ざさせてしまうだけです。対応の第一歩は、「共感」と「傾聴」です。なぜ、その物を大切にしているのか、その物にはどんな思い出があるのか、まずは相手の話を、否定せずに最後までじっくりと聞きましょう。「そうなんだ、これはそんなに大切な物だったんだね」と、一旦、相手の気持ちを受け止めてあげることが、信頼関係を築く上で何よりも重要です。その上で、片付けの目的を、「物を捨てること」から、「安全で快適な生活を取り戻すこと」へと、すり替えていくのが有効です。「このままでは、地震の時に物が倒れてきて危ないから、少しだけ通路を確保しない?」「火事になったら大変だから、ストーブの周りだけは片付けよう」というように、相手の身を案じている、という視点からアプローチするのです。また、「捨てる」という言葉に強い抵抗を示す場合は、「一時的に別の場所に移動する」「整理して、本当に大切なものだけを残す」といった、より抵抗感の少ない言葉を選ぶ工夫も必要です。時間はかかります。しかし、焦りは禁物です。相手のペースに合わせ、少しずつでも成功体験を積み重ね、片付いた空間の心地よさを本人に実感してもらうこと。その粘り強い関わりこそが、固く閉ざされた心の扉を開ける、唯一の鍵となるのです。
物を捨てると怒る家族への正しい対応法